この島の春は、存外騒がしい。
ここに住んで4年目になるけれど、こんなにも人のいない春は初めて。
フェリーから降りてくる人も皆、慣れたように駐輪場へ向かい各々の愛車に乗って次々と出発していく。
バス停が分からなくて右往左往する観光客も、それに苦笑いしながら対応する島民の姿もない。
行列をなしていたレンタサイクルのお店も、今は持ち込みの修理のみ。
角を曲がるごとに賑やかな声が聞こえていた路地裏も、時折聞こえてくる野良猫の声が響く程度に静まり返っている。
だからといって穏やかな景色が広がっているかというと、そうでもない。
山の緑は暴力的に眩しいし、海風は強いわ、日差しもなかなかに差し込んでくる。
「春は霧、夏は日差し、秋は台風、冬は海風」
島に来て早々に教わった、四季折々の自然の壁。
春は暖かくなることで霧がたちやすく船が止まる、夏は照りつける日差しを遮るものが無い、秋は台風で船が止まるしすぐに海水が上がってくる、冬は吹き曝しの海風の凄まじさで木々がしなる。
島の外に出ない生活をしていると、霧の影響をさほど感じない。
ぼんやりとどんよりと空が曇っている気がするくらいで、それよりも窓を叩くような風の強さが圧倒的。
きっと今までの春は、風の音など気にする余裕もないくらい走り回っていたり島中に人々の声が溢れていた。
島内の移動にも時間が勿体なくて車を使っていたから、昼間にさしてくる日差しの強さなんて知らなかった。
今までは徐々に緑に色付く様を見ていた山々だったのに、今年はいつの間にか桜が散っていた。
今のこの姿が、本来の島の春の姿なんだと思う。
きっとこうでもしなければ知ることのできなかった姿。知るはずのなかった姿。本来の日常。
この姿が恋しくなってしまったら、一体どうすればいいのだろう。