三十五にして初めてタバコデビューした。
小学生の頃に「煙の出るタバコ」を吸って(?)いたことはあった。
「ケムリの出るタバコ」と書いてあった近所のガチャガチャで手に入れた物だった。
写真にもバッチリ写っている。
小学四年生の私が台所で偉そうに足を組んでケムリの出るタバコとやらを満足げに吸っているところが。とても小学生とは思えないスカした態度を取っており、極悪人のような顔で写っていた。小学生の遊び。
勿論本当のホンモノのタバコではない。おもちゃのタバコである。もっと言えば吸っていたのではなく吹いていた。
ケムリの出るタバコは吹くとケムリがかすかに出てくるという中々の代物だった。先端部分もホンモノのタバコのように赤く光っておりホンモノにみえていた。
私はケムリの出るタバコがお気にいりだった。吸って(吹いて)遊んでいた。だが本当の煙草を吸ったことは成人してからも一度もなかった。
父が亡くなって初めて吸った。父も煙草を吸う人だったようだが父とは二十年以上離れていたので父のことは何も知らなかった。しかし喫煙者だったと母に聞いた。
父が亡くなってからふいにタバコを吸いたくなった。不思議だが。
もしくは父が私に乗り移って吸わせているのかもしれない。
父が亡くなって最初の一か月、道端に落ちている無残にもポイ捨てされている見知らぬ人の吸い終ったタバコがやけに目に入った。目について離れなくなった。こんなことは一度もなかった。
私は無性に気になり無造作にそれを拾っていった。
「ボランティアでゴミ拾いしていると思えばいいか」と言い訳にしていたが本当は父のことを思いながら拾っていたのかもしれないと悟った。
それから本物の煙草を吸いたくなって初めて誕生日に買った。結果は「わからないが落ち着く」だった。
私には長いこと父がいなかったので少しでも父に近づきたかったのかもしれない。父が私にタバコを教えてくれているような気もしている。(今更かもしれないが父の精いっぱいのコミュニケーションなのかもしれない)
こんなご時世にタバコの話は禁句かもしれないが、タバコてのは昔は本当にどこでも吸っているようなイメージだった。最近では新幹線も喫煙席がなくなった。
タバコ吸っているおっちゃんたちを見て昔はああこの人たちは、大人なんだなー、とかカッコいいなー、とか思ったものだ。
だから私も生意気に「ケムリの出るタバコ」を吹いていたのである。オチは特になく。本物の煙草は苦い味でした。